■ザルツブルク音楽祭はちょっと違う
ミュンヘンがザルツブルクに近いことは、意外に知られていない。なんと電車で1時間半で国境を越え、モーツアルト生誕の町、そしてザルツブルク音楽祭の町に着くことができる。今年のザルツブルク音楽祭では「ムーティの魔笛」は完売だった。が、戻りチケットがあるはず、と、僅かな可能性にかけて、ザルツブルクを訪れることにした。
「もうすぐザルツブルク」のアナウンスがあってからしばらくすると、川と教会の美しい風景が見えてくる。駅に着いたら時間を調整しつつ、祝祭劇場へ。Suche(2004/3の記事参照)をするには開演1時間10分ほど前から会場前にいるのがよい。ダフ屋はその頃に既に来ているので、そこで買ってもよいし、もう少し待って、一般客から買ってもよい。

■ザルツブルクのセレブの世界
しかし、今回は勝手が違っていた。ダフ屋の持っているチケットは残り3枚、280EURだという。ウィーンやミュンヘンの常設の歌劇場では、チケットのやりとりは当然のように行われるのだが、「音楽祭」はそんな世界ではなかった。スポンサーであるアウディに送られて、セレブ達が続々と到着し、一斉にカメラのフラッシュがたかれる。彼等は何十年も前から音楽祭を支援し、「今年の魔笛はいかがかしら」と、新調したドレスに毛皮のショールで、アウディに乗って登場し、そして演出が気に入らなければ、惜しげもなく途中で退場したりするのだ。

■プロのダフ屋、プロの買い手
そんな世界では「チケットが余ったから会場で売ろう」というリーズナブルな人など皆無、開演まで残り15分、今日はあきらめようかと思ったところで、ダフ屋のおにいさんが「実はもう1枚、安いチケットある。」と元値45EURのチケットをぴらぴらさせた。(最初から見せないところがプロだ。)まずまずの金額で交渉は成立、10分前に祝祭劇場に駆け込むことになった。

■そして至福のとき
最近のザルツブルクは奇抜な演出が多いそうだが、ザラストロが背広を着ていたり、神殿がひまわり畑の地下だったりする程度の、許容範囲内の演出だった。ムーティ&ウィーンフィルは、それはもう、ねばったかいのある美しい音色と小気味よい流れ。。。と思っていたら、なぜか2幕でモーツアルティウム管弦楽団と交替してしまった。1つのオペラを2つの団体が演奏するのは初めて見た。それぞれの音色が味わえて興味深くはあったが、音楽は少々停滞してしまった。とはいえ、選りすぐりの歌手陣は素晴らしく、あと何回、こういうレベルの音楽を味わえるのだろう、と、1時間半の道程を夢見心地でミュンヘンへと向かった。

文と写真 篠原 智子

 
 
 
篠原 智子
当団楽団員・ヴァイオリン奏者
ミュンヘン特派員
 

■目次
2003/12 ミュンヘンのクリスマス
2004/3 3+6×3の世界
2004/6 ミュンヘンの春
2004/10 皆のためのオペラ
2005/9 シノハラ、ザルツブルクに行く