■山の頂でニーチェを考える
シュトラウスはホフマンスタールと組んで送り出したオペラと、ニーチェの影響を受けながら世に問うた交響詩により彼の内にある異なった面を表現した。

専門家の研究によれば、アルプス交響曲はもともと1900年に着想された交響詩「芸術家の悲劇」(未完)が作品の出発点といわれている。その後、1902年には「アンチ・キリスト、アルプス交響曲」という名で先の交響詩の素材が展開されている。この時は4つの楽章を持つ大交響曲が構想されたようであるが、1913年に結局この中の第1楽章だけをアルプス交響曲としてまとめることになったようである。

ニーチェは、「アンチ・キリスト」の序言にてこのように述べている。
「政治やら民族統一の夢やら、憐れむべき議論を下方に見おろすためには、山上に住む訓練をしておかねばならぬ」
シュトラウスは、ニーチェの言葉と若き日に見たドイツアルプスの山々の姿を重ねあわせて「山の頂」に表現したのだ。

しかしまあ、面倒な話は脇にのけ、素直に山頂からドイツアルプスの山々を眺めてみよう。

山頂へはドイツ側とオーストリア側からロープウェイで登ることができる。「山の頂」ではドイツとオーストリアが国境を接しており、ドイツ側からだけでなく、オーストリア側からもロープウェイで上ることができる。パスポートを持っていけばドイツからオーストリアへ「山越え」することも可能だ。

■山頂にて
山頂駅に到着し、階段を登って展望台に出る。ツークシュピッツェの山頂は、展望台からすぐのところにあり、夏には少々勇気を要するがロープをつたって登ることもできる。

展望台からの景色にはまさにあのオーボエのソロである。最初曇っていた空も山並を眺めているうちに段々と晴れてきた。下の方にはアイプゼーが見え、虹がかかっている。これこそシュトラウスの世界である。

アルプス交響曲の「山の頂にて」を思い起こしながら景色を眺めていると今度はアルペンホルンの音が聞こえてきた。民族衣装を着たおじさんに頼んで吹かせてもらう。ドイツからオーストリアの方に向いてアルペンホルンを吹いてみる。ベタなのか場違いかよく分からない状況ではあるが、とりあえず音が出るとおじさんはいたく驚き一緒に写真をとってくれた(私、一応ホルン奏者なので音が出たぐらいで驚かれても…)。後で見ると、今度はトランペットを吹いていた。

階下のレストランでビールを飲みながら景色を楽しむという至福のひとときを過ごした後、下山。

文と写真渡邉 慶知

写真の説明(上から)
1: 展望台より
2: ツークシュピッツェ山頂
3: 外界を見下ろす
4: 何者か知り申さず

 
渡邉 慶知
当団楽団員・ホルン奏者
 

■目次
第1部:序章〜ガルミッシュ・パルテンキルヘンへ
第2部:Der Anstieg -- 昇っていく
第3部:Auf dem Gipfel -- 山の頂にて
第4部:Ausklang -- エピローグ